暗雲
†Case17:暗雲†
赤也君に聖水を渡した私は、赤也君に生気を分け与えた。
少しフラフラするけど、何とか大丈夫そう。
「大丈夫か、名字。顔色が悪いぞ。…赤也と何かあったな?」
部室に戻ろうとコートを横切った時、運悪く柳君に捕まった。
柳君って嫌に鋭いんだよね。
さすが参謀……。
私は精一杯にこりと元気に笑って振り返る。
『そんなことないよ。大丈夫、少し赤也君に元気をあげただけだから』
「…倒れられても困る。大人しくしていろ。部活が終わり次第理由を聞かせてもらうからな」
柳君ははあ…とため息をひとつ吐き、そう言うと練習に戻って行った。
助かった…。
今、長い間話し掛けられると生気与えすぎたのがばれるからね。
といっても、柳君のことだから分かってて見逃してくれたのかもしれないけれど。
『…少しだけ休ませてもらおう』
ふらつく身体にぐるぐる廻る頭に、確かにこれは柳君の言う通り大人しくしてなきゃいけないかもと苦笑。
幸村君に許可を取るため探すが何やら後輩と話し込んでいる。
どうしようか、と立ち尽くしていると私の肩に誰かが振れた。
「どうかしたのか、名字」
『あ、真田君。あの、私少し気分が優れないから少しだけ休ませてもらっててもいいかな?』
「うむ。確かに顔色が悪い。幸村には俺から言っておこう」
『ありがとう、真田君。頼みます』
声を掛けてくれた真田君に許可を取ると、私は木陰に腰を下ろし目を閉じた。
部室で休むのは少し気が引けたのだ。
††††††††††
「ああ…、起きたんか」
『ん……、あれ?仁王君?またサボってるの』
眠っていた私に掛けてくれていたジャージをお礼を言って返す。
少し寝ている間に幾分か具合も良くなっていた。
隣にいつの間にかいた仁王君はまたサボりだろうとあまり気にしない。
仁王君は気付いたら隣にいたとかしょっちゅうだから慣れたとも言う。
「お前さん、転校生が来てから変わったことは起きちょらんか?」
座ったまま伸びをしていると、隣に座った仁王君が不意にそんなことを聞いてきた。
転校生っていうと紫音だよね。
紫音が来てから変わったこと…?
『うーん…、得に?…あ、でも』
そういえば亀裂が出来たのも大量の幽霊も紫音が来た次の日の今日起きている。
でも、だからって紫音だとは言えないよね。
たまたまかも知れないし。
そんなことを言っていると全校生徒疑わなきゃいけない。
「何かあったんじゃな…」
『うん。まあ、今日の部活終わりに詳しく話すけど、これからはもっと危ない幽霊とか悪魔とかもしくは妖怪なんかも出て来るかもしれないんだよね』
仁王君に今日あったことを簡単に話すと、仁王君は険しい顔をして俯いた。
††††††††††
しばらく俯く仁王君を不思議に思いながら首を傾げる。
そんな私に気付いたのか、仁王君は優しく私の頭を撫でた。
「とにかく、何もないんならいい。ただ、あの転校生には気をつけんしゃい」
『? 紫音はいい子だよ』
「お前さんはもう少し人を疑いんしゃい…。まあ、そこがお前さんのいいとこでもあるんじゃが。お兄さんは心配じゃよ……」
さっきのシリアスな雰囲気はどこへいったのか…。
仁王君はそんなことを言いながら私の頭を撫でる手とは反対の手で目を隠し泣き真似をしだす。
『…あのねぇ、仁王君。私はそんなに弱くないから。……ていうか泣き真似すんな』
べし、と頭の上に乗せられた手を叩く。
反抗期じゃ…と更に泣き真似をする仁王君を冷たい目で見ると仁王君はすぐに泣き真似を止めた。
「なんじゃ、冷たいのう…。まあ、何かあったら俺を頼りんしゃい。俺はお前さんの友人で可愛い妹みたいなもんじゃからな」
『うん。ありがとう…』
優しい笑みを浮かべて私の頭を再度撫で始めた仁王君。
確かに私にとっても仁王君は頼りがいのある友人でお兄ちゃんって感じだ。
だからかな、仁王君といるのは嫌じゃない。
それどころか、すごく落ち着く…。
「眠いんか?」
『ん…。少しだけ寝る、ね…』
すう……と薄れる意識。
最後に見たのは仁王君の弧を描いた口元だった。
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